2017年6月24日土曜日

もっとしょっちゅう来るように

第二の家族のもとに到着すると、そこは別世界だった。
……というほどではないけれど、
引っ越したばかりの彼らの住まいは、地域も異なれば、間取りも異なった。

ママが家中を案内してくれた。
「ここがトイレ、こっちがお風呂、台所が結構広いから、このテーブルで食事するの。
ここがパパとママの部屋、それから……」

「あとは弟くんの部屋と、私が泊まる部屋、のはず。」
そう思ったところで、弟くんが現れた。

「ほら、あとはこんな部屋と、あと納屋」

『こんな部屋』は、綺麗に片付けられ、どうやら弟くんの部屋らしい。
『納屋』には、足の踏み場もないほどに、段ボール箱が積み上げられている。
引っ越したばかりの割に片付いて見えたのは、この納屋のお蔭だったのだ。

弟くんは、私の心中に生じた疑問を、そのまま口に出した。
「どっちの部屋で寝る?こっちで寝てみる?」
しかし意外にも彼が指差したのは、『納屋』だった。

一瞬ひるんだものの、私は答えた。
「よし、覚悟決めた。」
これまで私が『帰省』した時はいつでも、彼が自分の部屋を気持ちよく明け渡し、
大きな体を小さな簡易ベッドに押込めてきたのだ。
私だって、一度くらいは頑張ってみよう。

弟くんはニヤリと笑い、「ママと相談して。」とだけ言って出掛けた。

結局その晩、私は弟くんの部屋に泊めてもらった。
早朝、廊下を挟んで向かいの納屋に、人の気配はなかった。
「私が泊まることで、弟くんを追い出しているのではないだろうか。
もしかして私は迷惑なんじゃないか。」
そんな、何だか申し訳ない気持ちがよぎった。

朝ごはんを食べながら、弟くんに尋ねた。
「昨夜はどこに泊まったの?」
彼は、大金持ちの友人宅の『余ってる部屋』に泊めてもらっているらしい。

短い滞在の最後の晩、家族そろってシャンパンを開けた。
グラスを上げてパパが乾杯をした。「仕事が上手くいくように!」
今度はママがグラスを上げた。「みんなが元気でいられるように!」
滅多に乾杯の言葉を述べない弟くんがグラスを上げた。
「もっとしょっちゅう来るように!」そう言うと、彼は私に目配せをした。
パパとママとが唱和した。
「もっとしょっちゅう来るように!」

私もグラスを上げ、いっぺんに飲み干した。
柔らかな泡の中に、小さくひとつ、喉にチクリと感じた。
きっと、「私は迷惑なんじゃないか」なんて心配が、
シャンパンの泡と一緒に流れて行ったんだ。そんな気がした。