第二の家族のもとに到着すると、そこは別世界だった。
……というほどではないけれど、
引っ越したばかりの彼らの住まいは、地域も異なれば、間取りも異なった。
ママが家中を案内してくれた。
「ここがトイレ、こっちがお風呂、台所が結構広いから、このテーブルで食事するの。
ここがパパとママの部屋、それから……」
「あとは弟くんの部屋と、私が泊まる部屋、のはず。」
そう思ったところで、弟くんが現れた。
「ほら、あとはこんな部屋と、あと納屋」
『こんな部屋』は、綺麗に片付けられ、どうやら弟くんの部屋らしい。
『納屋』には、足の踏み場もないほどに、段ボール箱が積み上げられている。
引っ越したばかりの割に片付いて見えたのは、この納屋のお蔭だったのだ。
弟くんは、私の心中に生じた疑問を、そのまま口に出した。
「どっちの部屋で寝る?こっちで寝てみる?」
しかし意外にも彼が指差したのは、『納屋』だった。
一瞬ひるんだものの、私は答えた。
「よし、覚悟決めた。」
これまで私が『帰省』した時はいつでも、彼が自分の部屋を気持ちよく明け渡し、
大きな体を小さな簡易ベッドに押込めてきたのだ。
私だって、一度くらいは頑張ってみよう。
弟くんはニヤリと笑い、「ママと相談して。」とだけ言って出掛けた。
結局その晩、私は弟くんの部屋に泊めてもらった。
早朝、廊下を挟んで向かいの納屋に、人の気配はなかった。
「私が泊まることで、弟くんを追い出しているのではないだろうか。
もしかして私は迷惑なんじゃないか。」
そんな、何だか申し訳ない気持ちがよぎった。
朝ごはんを食べながら、弟くんに尋ねた。
「昨夜はどこに泊まったの?」
彼は、大金持ちの友人宅の『余ってる部屋』に泊めてもらっているらしい。
短い滞在の最後の晩、家族そろってシャンパンを開けた。
グラスを上げてパパが乾杯をした。「仕事が上手くいくように!」
今度はママがグラスを上げた。「みんなが元気でいられるように!」
滅多に乾杯の言葉を述べない弟くんがグラスを上げた。
「もっとしょっちゅう来るように!」そう言うと、彼は私に目配せをした。
パパとママとが唱和した。
「もっとしょっちゅう来るように!」
私もグラスを上げ、いっぺんに飲み干した。
柔らかな泡の中に、小さくひとつ、喉にチクリと感じた。
きっと、「私は迷惑なんじゃないか」なんて心配が、
シャンパンの泡と一緒に流れて行ったんだ。そんな気がした。