突然、息苦しさを覚え、居ても立ってもいられなくなる。
喉の奥、否、もっと奥、胸の奥から、ムンムンと何かが突き上げてくる。
いつもは理性に支えられているつもりでも、
所詮、誰も皆、ケモノであることを、
そして所詮、ケモノは皆、オスかメスか、であることを、
否応無しに思い知らされる。
この感覚、この臭い、
これは、・・・恋の臭い、
恋の季節。
我が城の前の路地には、私には数え切れないほどの猫が暮らしている。
オス達によって振りまかれた恋の臭いに、思わず鼻を押さえ、息苦しさを覚える。
自分の暮らす路地だというのに、居ても立ってもいられない。
この感覚、この臭い、
これは、・・・恋の臭い。
恋の季節の到来だ。
2012年4月30日月曜日
2012年4月26日木曜日
幸せの花びら
何年前になるだろうか。
四月上旬のことだった。
当時の勤め先の部長が言った。
「はらはらと舞う桜の花びらを空中で捕まえると、幸せも捕まえられるって聞いてね、
『オレは今、朝に晩に桜吹雪の中を通勤してるんだから、そんなこと簡単さ!』と思って、
ちょっと試したのよ。
しかし、これが案外難しくて、ちっとも捕まえられないんだ。
花見客の前で、奇妙な踊りを踊るばっかりで、恥ずかしくなって諦めたよ」
それを聞いて、ひとつ私も幸せの花びらを捕まえてみようと、
昼休み、近くの桜名所へ散歩に出た。
ちょっと風が吹けば、数え切れないほどの桜の花びらが一斉に舞い、猛烈な桜吹雪になる。
こんなに沢山舞っている。
それに、一枚一枚は、あくまでも舞っているのであって、
決して、猛スピードでスッ飛んで行くわけではない。
簡単にドンブリ一杯分くらい捕まえられそうな気がする。
これが捕まえられないなんて、
部長はスポーツマン風に見えるけど、実は運動神経がメチャメチャ鈍いのかもしれない。
宙を舞う花びら達の中から、ひとひらに狙いを定め、舞い進む行く手に片手を伸ばした。
手を伸ばすと、その花びらは方向転換した。
転換された方向に、また手を伸ばす。
すると、花びらはまた方向転換する。
手を伸ばしては逃げられ、逃げられてはまたそちらに手を伸ばし、また逃げられる。
意外にも、舞う花びらを捕まえるのは難しいことが分かった。
やはり部長は見た目どおりのスポーツマンで、運動神経も良いのだろう。
そんな彼が諦めたのだ。
私は弱気になってきた。
「このまま肩に桜吹雪がくっついて、遠山の金さんに変身するのと、
幸せの花びらをひとひら捕まえるのと、どっちが早く実現するだろう?」
そんな疑問まで湧いてきた。
いや、ここまで来た目的を思えば、遠山の金さんになんか変身していられない。
よし、私は幸せの花びらを捕まえる方が早いことに賭ける!
周りには昼休みを満開の桜の下で過ごす人たちが少なからずいた。
しかし、人目など気にしてはいられない。
私は覚悟を決め、宙を舞う花びら達の中から、改めてひとひらに狙いを定めた。
その舞い進む行く手に、今度は両手を伸ばした。
花びらは方向を変え、逃げた。
逃げた方向に、また両手を伸ばした。
今度は捕まりそうだ。
花びらを挟むように両手を合わせた。
しかし花びらは方向を変え、逃げた。
部長が花見客にご披露した奇妙な踊りを、今度は私が踊っていた。
しばらくの間、美しく舞う花びら達と共に奇妙な踊りを踊ったところで、我に返った。
行き交う人たちの様子から、昼休みも終わりに近いことが伺えた。
時間切れだ。
賭けもオシマイ。
遠山の金さんにも変身しなければ、幸せの花びらも捕まえられなかった。
チョッピリ残念。
だけど人目も気にせず、こんなカッコ悪いことに夢中になっちゃうのって、結構気分好いかも。
そう思って、桜名所を去ろうとした時だった。
一陣の風が吹き、再び桜吹雪が起きた。
それでも私は、手を伸ばさなかった。
あちこちで、花びらがくるくると渦を巻いた。
「ありがとう。あなた達と一緒にヘンテコな踊りを踊って、楽しかった」
花びら達を見上げ、挨拶をした。
職場に向かって歩き出す前に、
頑張ったけど、花びらをひとつも捕まえられなかった両手のひらに目をやった。
はらはらと一枚の花びらが舞い下り、左手の上に静かに乗った。
四月上旬のことだった。
当時の勤め先の部長が言った。
「はらはらと舞う桜の花びらを空中で捕まえると、幸せも捕まえられるって聞いてね、
『オレは今、朝に晩に桜吹雪の中を通勤してるんだから、そんなこと簡単さ!』と思って、
ちょっと試したのよ。
しかし、これが案外難しくて、ちっとも捕まえられないんだ。
花見客の前で、奇妙な踊りを踊るばっかりで、恥ずかしくなって諦めたよ」
それを聞いて、ひとつ私も幸せの花びらを捕まえてみようと、
昼休み、近くの桜名所へ散歩に出た。
ちょっと風が吹けば、数え切れないほどの桜の花びらが一斉に舞い、猛烈な桜吹雪になる。
こんなに沢山舞っている。
それに、一枚一枚は、あくまでも舞っているのであって、
決して、猛スピードでスッ飛んで行くわけではない。
簡単にドンブリ一杯分くらい捕まえられそうな気がする。
これが捕まえられないなんて、
部長はスポーツマン風に見えるけど、実は運動神経がメチャメチャ鈍いのかもしれない。
宙を舞う花びら達の中から、ひとひらに狙いを定め、舞い進む行く手に片手を伸ばした。
手を伸ばすと、その花びらは方向転換した。
転換された方向に、また手を伸ばす。
すると、花びらはまた方向転換する。
手を伸ばしては逃げられ、逃げられてはまたそちらに手を伸ばし、また逃げられる。
意外にも、舞う花びらを捕まえるのは難しいことが分かった。
やはり部長は見た目どおりのスポーツマンで、運動神経も良いのだろう。
そんな彼が諦めたのだ。
私は弱気になってきた。
「このまま肩に桜吹雪がくっついて、遠山の金さんに変身するのと、
幸せの花びらをひとひら捕まえるのと、どっちが早く実現するだろう?」
そんな疑問まで湧いてきた。
いや、ここまで来た目的を思えば、遠山の金さんになんか変身していられない。
よし、私は幸せの花びらを捕まえる方が早いことに賭ける!
周りには昼休みを満開の桜の下で過ごす人たちが少なからずいた。
しかし、人目など気にしてはいられない。
私は覚悟を決め、宙を舞う花びら達の中から、改めてひとひらに狙いを定めた。
その舞い進む行く手に、今度は両手を伸ばした。
花びらは方向を変え、逃げた。
逃げた方向に、また両手を伸ばした。
今度は捕まりそうだ。
花びらを挟むように両手を合わせた。
しかし花びらは方向を変え、逃げた。
部長が花見客にご披露した奇妙な踊りを、今度は私が踊っていた。
しばらくの間、美しく舞う花びら達と共に奇妙な踊りを踊ったところで、我に返った。
行き交う人たちの様子から、昼休みも終わりに近いことが伺えた。
時間切れだ。
賭けもオシマイ。
遠山の金さんにも変身しなければ、幸せの花びらも捕まえられなかった。
チョッピリ残念。
だけど人目も気にせず、こんなカッコ悪いことに夢中になっちゃうのって、結構気分好いかも。
そう思って、桜名所を去ろうとした時だった。
一陣の風が吹き、再び桜吹雪が起きた。
それでも私は、手を伸ばさなかった。
あちこちで、花びらがくるくると渦を巻いた。
「ありがとう。あなた達と一緒にヘンテコな踊りを踊って、楽しかった」
花びら達を見上げ、挨拶をした。
職場に向かって歩き出す前に、
頑張ったけど、花びらをひとつも捕まえられなかった両手のひらに目をやった。
はらはらと一枚の花びらが舞い下り、左手の上に静かに乗った。
2012年4月21日土曜日
NR
昔々、私が初めての就職をしたころのこと。
職場の壁には、恐らく他の多くの職場と同様、大きなホワイトボードが掛けられ、
『行動予定表』と題されたメンバー一覧として使用されていた。
外出や、会議などによる離籍、出張、休暇、などの際、
行動予定と帰社時間とを、自分の名の書かれた行の各欄に記入する。
そして職場に戻ったら、自分の行をきれいに消す。
行動予定の欄には、
主に行き先、『第○会議室』、『××出張』や、『休暇』などが書かれる。
帰社時間の欄には、
『13:00』などの時刻や、『4/21』などの日付が書かれる。
職場にいる者の行は、名前の欄以外が真っ白だし、
不在の者の行には、行き先と、戻ってくる時刻または日付が書かれている。
これでメンバーの行動が一目瞭然、という、なんとも便利なアナログ・システムである。
ある日、とある先輩が外出した際、帰社時間の欄に『すじ』とあった。
確認すると、『すぐ』を走り書きしたものであることが分かった。
それからというもの、その職場では、「すぐ戻る」ことを、「すじ戻る」と言うようになった。
また別のある日、別のとある先輩が外出した時には、帰社時間の欄に『NR』とあった。
それが何を意味するかを知らなかった私は、在席中の先輩に尋ねた。
「『NR』って、何ですか?」
「直帰、つまり、会社に戻らずそのまま帰宅するってこと。『ノー・リターン』の略だよ」
なるほど、と納得すると同時に、なぜか先輩と私の口をついて、同じ言葉が出た。
「ノー・リターン、ノー・タリーン」
それからというもの、その職場では『NR』を「ノー・タリーン」と読むようになった。
職場の壁には、恐らく他の多くの職場と同様、大きなホワイトボードが掛けられ、
『行動予定表』と題されたメンバー一覧として使用されていた。
外出や、会議などによる離籍、出張、休暇、などの際、
行動予定と帰社時間とを、自分の名の書かれた行の各欄に記入する。
そして職場に戻ったら、自分の行をきれいに消す。
行動予定の欄には、
主に行き先、『第○会議室』、『××出張』や、『休暇』などが書かれる。
帰社時間の欄には、
『13:00』などの時刻や、『4/21』などの日付が書かれる。
職場にいる者の行は、名前の欄以外が真っ白だし、
不在の者の行には、行き先と、戻ってくる時刻または日付が書かれている。
これでメンバーの行動が一目瞭然、という、なんとも便利なアナログ・システムである。
ある日、とある先輩が外出した際、帰社時間の欄に『すじ』とあった。
確認すると、『すぐ』を走り書きしたものであることが分かった。
それからというもの、その職場では、「すぐ戻る」ことを、「すじ戻る」と言うようになった。
また別のある日、別のとある先輩が外出した時には、帰社時間の欄に『NR』とあった。
それが何を意味するかを知らなかった私は、在席中の先輩に尋ねた。
「『NR』って、何ですか?」
「直帰、つまり、会社に戻らずそのまま帰宅するってこと。『ノー・リターン』の略だよ」
なるほど、と納得すると同時に、なぜか先輩と私の口をついて、同じ言葉が出た。
「ノー・リターン、ノー・タリーン」
それからというもの、その職場では『NR』を「ノー・タリーン」と読むようになった。
2012年4月14日土曜日
モテ期
ふと、自分のこれまでの人生を振り返ってみたら、
思いもかけない事実に気付いた。
20歳台前半、正確には、20歳から23歳といったあたり、私はモテていた。
思い出せるだけでも、5人の男性からプロポーズをされた。
今思えば、なんとも勿体ないことに、片っ端から断ってしまった。
それでもなお諦めきれなかったある男性からは、父親を紹介されたことまであった。
そんなモテモテ期、
当時、相手の男性達の年齢は、みな10歳以下だった。
きっと今頃、みんな立派に成長していることだろう。
そしてこれから、それぞれ、どんな素敵なパートナーと共に人生を歩んで行くのだろう。
思いもかけない事実に気付いた。
20歳台前半、正確には、20歳から23歳といったあたり、私はモテていた。
思い出せるだけでも、5人の男性からプロポーズをされた。
今思えば、なんとも勿体ないことに、片っ端から断ってしまった。
それでもなお諦めきれなかったある男性からは、父親を紹介されたことまであった。
そんなモテモテ期、
当時、相手の男性達の年齢は、みな10歳以下だった。
きっと今頃、みんな立派に成長していることだろう。
そしてこれから、それぞれ、どんな素敵なパートナーと共に人生を歩んで行くのだろう。
2012年4月7日土曜日
出来心
その晩は早めに床に就く予定だった。
翌朝は少し早めに起きて、
それからしばらく続く、私にとっては目一杯のスケジュールに、
元気一杯稼動して取り組む決意をしていたためだ。
全ては順調だった。
午後10時前、あとは寝るばかりに仕度を整え、明かりを消そうとした。
その時だった。
まだ明かりの消えていない部屋の中を、ぐるっと見回してしまったのである。
それは、ほんの出来心で、何となくチョット見回してみただけのことだった。
改めて、ぐるっと見回してみると、
「この部屋には、もっと望ましい家具の配置があるはずだ」
と直感した。
あの棚をこっちに動かし、
この棚の中身は、分野別にあっちとこっちに振り分けて、
ここに空いたスペースには、あの辺りのものを入れてやって、
あれをああ動かして、これをこう動かして、
こうして、ああすれば・・・
この部屋は間違いなく、今よりもずっと素敵に快適に、暮らしやすくなる!
私の信条の一つに、『思い立ったが吉時』というのがある。
最後が「吉日」でなく、「吉時」なので、「その日」なんて悠長なことは言っていられない。
「その時、その瞬間」に実行すべし。
翌朝からのスケジュールも忘れ、我も忘れて、
寝巻姿のまま、あの棚をこっちに動かすべく、まずは中身を出し始めた。
強い空腹と喉の渇きを感じて、我に返った。
時計に目をやると、午前二時を回っている。
部屋の模様替えは、未だ五合目にも達していない。
しかし、翌日は早朝からの稼動が予定されている。
兎にも角にも時間切れとして、取るものも取り敢えず、散らかった部屋の中で床に就いた。
あれから一ヶ月、私にとっては目一杯のスケジュールの中で、
一つ一つの課題に、精一杯取り組み続けている。
そして今なお、我が城は、素敵で快適で暮らしやすい部屋への変革途上であり続けている。
変革途上であるとは、
それなりに構築され、既にそれなりに回っているシステムを一旦バラし、
一つ一つの構成要素を改めて確認しながら、
それまでとは異なる形に再構築する作業の真っ最中、と言い換えることができる。
このとき、すっかりバラバラにされた世界は、まさに混沌である。
たとえ、最終的に目指すべき再構築後の絵図が掲げられていても、なお、
混沌の中においては、右も左も分からずに、迷い、戸惑い、もがく。
そんな変革途上の部屋の中での生活を、
すなわち、混沌の中で迷い、戸惑い、もがく生活を、もう一ヶ月続けている。
そして今なお、出口は見えていない。
このバラバラが、
ほんの少し前までは、それなりのシステムとして回っていたことや
いずれまた、新しいシステムに生まれ変わって、素敵に回り始めるはず、ということが、
今や、信じ難くなっている。
そんな混沌とした生活に、チョッピリ疲れを感じると同時に、ふと疑問が湧いた。
そもそも、いつ、どんな訳で、私はこんな混沌の中に放り出されてしまったのだろう?
こんな一大事というのは、一体全体、どんなきっかけで始まるものなのだろう?
記憶の中で、時間を遡ってみると、ある瞬間に行き当たった。
そうだ。
予定通り、順調に、あとは寝るばかりに仕度を整え、部屋の明かりを消すはずだった、その時だ。
予定に反し、まだ明かりの消えていない部屋の中を、ぐるっと見回してしまった、あの時だ。
あの時は、まさか、こんな一大事に至るとは思いもしなかった。
きっかけは、ほんの出来心だったのだ。
翌朝は少し早めに起きて、
それからしばらく続く、私にとっては目一杯のスケジュールに、
元気一杯稼動して取り組む決意をしていたためだ。
全ては順調だった。
午後10時前、あとは寝るばかりに仕度を整え、明かりを消そうとした。
その時だった。
まだ明かりの消えていない部屋の中を、ぐるっと見回してしまったのである。
それは、ほんの出来心で、何となくチョット見回してみただけのことだった。
改めて、ぐるっと見回してみると、
「この部屋には、もっと望ましい家具の配置があるはずだ」
と直感した。
あの棚をこっちに動かし、
この棚の中身は、分野別にあっちとこっちに振り分けて、
ここに空いたスペースには、あの辺りのものを入れてやって、
あれをああ動かして、これをこう動かして、
こうして、ああすれば・・・
この部屋は間違いなく、今よりもずっと素敵に快適に、暮らしやすくなる!
私の信条の一つに、『思い立ったが吉時』というのがある。
最後が「吉日」でなく、「吉時」なので、「その日」なんて悠長なことは言っていられない。
「その時、その瞬間」に実行すべし。
翌朝からのスケジュールも忘れ、我も忘れて、
寝巻姿のまま、あの棚をこっちに動かすべく、まずは中身を出し始めた。
強い空腹と喉の渇きを感じて、我に返った。
時計に目をやると、午前二時を回っている。
部屋の模様替えは、未だ五合目にも達していない。
しかし、翌日は早朝からの稼動が予定されている。
兎にも角にも時間切れとして、取るものも取り敢えず、散らかった部屋の中で床に就いた。
あれから一ヶ月、私にとっては目一杯のスケジュールの中で、
一つ一つの課題に、精一杯取り組み続けている。
そして今なお、我が城は、素敵で快適で暮らしやすい部屋への変革途上であり続けている。
変革途上であるとは、
それなりに構築され、既にそれなりに回っているシステムを一旦バラし、
一つ一つの構成要素を改めて確認しながら、
それまでとは異なる形に再構築する作業の真っ最中、と言い換えることができる。
このとき、すっかりバラバラにされた世界は、まさに混沌である。
たとえ、最終的に目指すべき再構築後の絵図が掲げられていても、なお、
混沌の中においては、右も左も分からずに、迷い、戸惑い、もがく。
そんな変革途上の部屋の中での生活を、
すなわち、混沌の中で迷い、戸惑い、もがく生活を、もう一ヶ月続けている。
そして今なお、出口は見えていない。
このバラバラが、
ほんの少し前までは、それなりのシステムとして回っていたことや
いずれまた、新しいシステムに生まれ変わって、素敵に回り始めるはず、ということが、
今や、信じ難くなっている。
そんな混沌とした生活に、チョッピリ疲れを感じると同時に、ふと疑問が湧いた。
そもそも、いつ、どんな訳で、私はこんな混沌の中に放り出されてしまったのだろう?
こんな一大事というのは、一体全体、どんなきっかけで始まるものなのだろう?
記憶の中で、時間を遡ってみると、ある瞬間に行き当たった。
そうだ。
予定通り、順調に、あとは寝るばかりに仕度を整え、部屋の明かりを消すはずだった、その時だ。
予定に反し、まだ明かりの消えていない部屋の中を、ぐるっと見回してしまった、あの時だ。
あの時は、まさか、こんな一大事に至るとは思いもしなかった。
きっかけは、ほんの出来心だったのだ。
2012年4月2日月曜日
ぢんちょうげ
「あ、この匂い」
仕事場へ向かう途中、思わず足を止めた。
「なんだっけ、なんだっけ、この匂い」
空を見上げて、記憶を辿って、辺りを見回しながら、目線を下げていくと、
「そうだ!」と思い当たるのとほぼ時を同じくして、
少し先に咲いているぢんちょうげが目に入った。
毎年、最初にぢんちょうげの匂いを感じた時、
どういう訳か、すぐにはそれと分からずに、
「なんだっけ、この匂い」と思う。
あまり派手さのない花に鼻を近づけ、思い切り息を吸うと、
身体の中いっぱいに、甘い匂いがしみこむようだ。
再び歩き出すと、再び甘い匂いがしてくる。
辺りを見渡すと、もう少し先にもぢんちょうげが咲いている。
そちらの花にも鼻を近づけ、おいしい匂いを思い切り吸い込む。
またまた歩き出すと、またまた甘い匂いがしてくる。
おいしい匂いに誘われるまま、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ、
くんくん嗅いで回った。
いつもなら、徒歩7分の仕事場への道のりに、15分以上かかった。
毎年、ぢんちょうげの咲くこの季節、
どういう訳か、どこへ行くにも時間がかかる。
仕事場へ向かう途中、思わず足を止めた。
「なんだっけ、なんだっけ、この匂い」
空を見上げて、記憶を辿って、辺りを見回しながら、目線を下げていくと、
「そうだ!」と思い当たるのとほぼ時を同じくして、
少し先に咲いているぢんちょうげが目に入った。
毎年、最初にぢんちょうげの匂いを感じた時、
どういう訳か、すぐにはそれと分からずに、
「なんだっけ、この匂い」と思う。
あまり派手さのない花に鼻を近づけ、思い切り息を吸うと、
身体の中いっぱいに、甘い匂いがしみこむようだ。
再び歩き出すと、再び甘い匂いがしてくる。
辺りを見渡すと、もう少し先にもぢんちょうげが咲いている。
そちらの花にも鼻を近づけ、おいしい匂いを思い切り吸い込む。
またまた歩き出すと、またまた甘い匂いがしてくる。
おいしい匂いに誘われるまま、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ、
くんくん嗅いで回った。
いつもなら、徒歩7分の仕事場への道のりに、15分以上かかった。
毎年、ぢんちょうげの咲くこの季節、
どういう訳か、どこへ行くにも時間がかかる。
2012年4月1日日曜日
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