芽の出たところを大きめに切り取り、残りを食材として使った。
大きめに切り取ったジャガイモの芽を捨てようと手に取った。
ちぇ、食べるところがこんなに減っちゃった。
すると、
「いえいえ、これから増やしますよ。」
そんな声が、聞こえたような、聞こえないような……。
しからば、増やしてもらおうじゃないか。
ジャガイモの芽を植木鉢に入れ、土を被せた。
日当たりの良い我が城のベランダで、彼は見る見る伸びていった。
元気いっぱい葉を茂らせ、私の胸くらいの高さにまで丈が伸びた。
こんなに育つなんて、思ってもみなかった。
これだけたくさん葉が茂ったら、光合成もたくさんすることだろう。
光合成をたくさんしたら、たくさんの澱粉ができることだろう。
たくさんの澱粉ができたら、ジャガイモとして蓄えられることだろう。
すると、この植木鉢の中には、どれほどたくさんのジャガイモができることだろう?
たぶん、今、植木鉢の中には、ジャガイモが10個くらいできているはずだ!
私は暫定的な結論を出した。
そして実家に帰り、家族に話した。
「その植木鉢は、ジャガイモが10個も入るほど大きいの?」
「ギュウギュウ詰めにすれば、入る、かもしれない。」
「それじゃあ、土が溢れちゃうでしょ?」
「いや、溢れていない。だって……土が減ったからね、たぶん。」
「減った分の土はどこに行ったの?」
「ジャガイモが食べた。」
この会話の行く先は、推して知るべし。
家族からは徹底的にやっつけられ、
「植木鉢の中には小指の先ほどのジャガイモが1つあれば御の字」と結論付けられた。
それからというもの、私はベランダに出るたび、
「これは、観賞用ジャガイモだ」と自分に言い聞かせた。
それでも、元気に生い茂る観賞用ジャガイモの葉を見ると、
植木鉢の中でひしめき合っているはずの10個のジャガイモに
思いを馳せずにはいられない。
夏が過ぎ、秋も過ぎ、すっかり寒くなった。
観賞用ジャガイモの茎も葉も、すっかり枯れ果てた。
明日は可燃ごみの日だ。
枯れた茎と葉にサヨナラのご挨拶をしよう。
この夏、あなたを思っては、期待に胸を躍らせた。
そして、その期待が裏切られて傷つくことを私は恐れた。
だから、そんな恐れからの逃げ道を作るために、自分の期待に蓋をした。
それでもやっぱり、姿を見るたびあなたを思い、期待せずにはいられなかった。
こんなことばかりを繰り返し、私の心はあなたのお蔭で振り回されっぱなしだった。
まるで恋でもしているように。
楽しかった。ありがとう。
すると、
「いえいえ、ご挨拶は植木鉢の中を見てからにしてくださいな。」
そんな声が、聞こえたような、聞こえないような……。
しからば、見せてもらおうじゃないか。
私は、枯れ果てた観賞用ジャガイモの茎を掴んだ。
意外に強い手ごたえを感じ、手を止めた。
胸の奥で、期待がみるみる育つのを感じた。まるであの頃のジャガイモの葉のように。
ダメ、期待しちゃ。
忘れないで、家族会議で出した結論を。
「小指の先ほどのジャガイモが1つあれば御の字」心の中で唱えた。
でも、やっぱり我慢できない。
裏切られてもいい。あなたの本当の姿が見たい。
小振りではあったが、ジャガイモが5つ連なっていた。
おぉ、観賞用ジャガイモよ!
お前は、ただの観賞用なんかじゃない。
本当の本当に本物のジャガイモだ!!
私の期待は裏切られてなんかいなかった。
あなたは私に素知らぬ顔を見せることもなく、精一杯、命懸けで尽くしてくれた。
今度こそ、本当の本当に、どうもありがとう。
(2013/2/17 10:29)