2017年3月11日土曜日

英会話上達法

たしか、高校生の頃だったろうか。
兄弟の一人が言った。

「効果の高い英会話上達法があるらしい。しかも簡単で、費用は一切かからない。」

そんな都合の良い話が本当にあるのだろうか。
まずは一体全体どんな方法かを確かめよう。

「曜日を決めて、その日は日本語を一切使わない。
言いたいことは、身振り手振りを使ってもいいから、話すのは英語だけ。
『1時間』なんて区切り方をすると、もじもじしているうちに終わってしまうので、
『1日中』とすることが大切だ。
こうして、例えば週末英語生活を続けていると、自ずと上達するというわけ。」

なるほど、それは良い。
今すぐにも始めよう、ということで、
その日はその瞬間からその英会話上達法を実践することにした。

・・・・・・

私たちは沈黙した。
そうそう、これはやむを得ない。
だって、はじめの1時間やそこらは、
もじもじしているうちに過ぎてしまうと、説明されたもの。

・・・・・・

だんだんお腹が空いてきた。
時計を見ると、昼が近づいている。
私たちは顔を見合わせた。

「Um...(ええと、そろそろお昼だよね)」
「Um...Ah?(うん・・・、ほら、スパゲッティでも茹でようか)」
「OK.」

空腹とは、何と大きな影響力を持つものだろうか。
沈黙を続けていた我々は、身振り手振りを交えながらも、英語での会話を始めた。

「Here.(ほら、できたよ)」
「Thanks.(いただきます)」

少しずつだが、英単語が出てきた。
きっと、こうして続けているうちに、だんだん英会話らしくなるんだろう。

「Thanks.(ごちそうさま)」
「Oh.(洗いものは私がするよ)」
「Thanks.(ありがとう)」

そうだ、何も焦る必要はない。
少しずつ、ほんの少しずつでも英語で話せばいいんだ。

昼食後、兄弟は新聞を読み始めた。
いつもなら、面白い記事を見つけると読んで聞かせてくれる。
そしてあれこれオシャベリをするのが常だった。
どうやら兄弟は、恰好の記事を見つけたらしい。
紙面を示しながら、こちらを見た。

しかし、今日は英語の日だ。
我が家の新聞は日本語で書かれている。
どうやってこれを読み聞かせてもらおうか。

しばしの沈黙の後、我々二人は同時に膝を叩き、同時に口を開いた。

「Well, in Japanese!(えっと、日本語で行こうか!)」

そして、いつも通りの楽しい午後のひとときを過ごした。

幸か不幸か、効果の高い英会話上達法が、我々に英会話力をもたらすことはなかった。
ただ、その効果の高い英会話上達法は、我々に別のものをもたらした。
今でも、その日のことは我が家の語り草となっている。
いつも通りの週末の一日を、印象的な一日として記憶に残す、
そんな効果をもたらしたのだ。