兄弟の一人が言った。
「効果の高い英会話上達法があるらしい。しかも簡単で、費用は一切かからない。」
そんな都合の良い話が本当にあるのだろうか。
まずは一体全体どんな方法かを確かめよう。
「曜日を決めて、その日は日本語を一切使わない。
言いたいことは、身振り手振りを使ってもいいから、話すのは英語だけ。
『1時間』なんて区切り方をすると、もじもじしているうちに終わってしまうので、
『1日中』とすることが大切だ。
こうして、例えば週末英語生活を続けていると、自ずと上達するというわけ。」
なるほど、それは良い。
今すぐにも始めよう、ということで、
その日はその瞬間からその英会話上達法を実践することにした。
・・・・・・
私たちは沈黙した。
そうそう、これはやむを得ない。
だって、はじめの1時間やそこらは、
もじもじしているうちに過ぎてしまうと、説明されたもの。
・・・・・・
だんだんお腹が空いてきた。
時計を見ると、昼が近づいている。
私たちは顔を見合わせた。
「Um...(ええと、そろそろお昼だよね)」
「Um...Ah?(うん・・・、ほら、スパゲッティでも茹でようか)」
「OK.」
空腹とは、何と大きな影響力を持つものだろうか。
沈黙を続けていた我々は、身振り手振りを交えながらも、英語での会話を始めた。
「Here.(ほら、できたよ)」
「Thanks.(いただきます)」
少しずつだが、英単語が出てきた。
きっと、こうして続けているうちに、だんだん英会話らしくなるんだろう。
「Thanks.(ごちそうさま)」
「Oh.(洗いものは私がするよ)」
「Thanks.(ありがとう)」
そうだ、何も焦る必要はない。
少しずつ、ほんの少しずつでも英語で話せばいいんだ。
昼食後、兄弟は新聞を読み始めた。
いつもなら、面白い記事を見つけると読んで聞かせてくれる。
そしてあれこれオシャベリをするのが常だった。
どうやら兄弟は、恰好の記事を見つけたらしい。
紙面を示しながら、こちらを見た。
しかし、今日は英語の日だ。
我が家の新聞は日本語で書かれている。
どうやってこれを読み聞かせてもらおうか。
しばしの沈黙の後、我々二人は同時に膝を叩き、同時に口を開いた。
「Well, in Japanese!(えっと、日本語で行こうか!)」
そして、いつも通りの楽しい午後のひとときを過ごした。
幸か不幸か、効果の高い英会話上達法が、我々に英会話力をもたらすことはなかった。
ただ、その効果の高い英会話上達法は、我々に別のものをもたらした。
今でも、その日のことは我が家の語り草となっている。
いつも通りの週末の一日を、印象的な一日として記憶に残す、
そんな効果をもたらしたのだ。