2013年5月20日月曜日

電卓による相性診断

その女の子は、私の姿を見るなり、堰を切ったように話し始めた。
「学校の友達から、『電卓による相性診断』を教えてもらったの!」

それは、二人の氏名のフリガナを使用して、相性の良さをパーセンテージで求めるものだった。

(1) 一人ずつの氏名のフリガナを、一定のルールに従って自然数に変換する。
(2) 上記(1)により得られた二つの自然数を足し合わせ、一つの自然数を得る。
(3) 上記(2)により得られた自然数を、2で割り続け、整数部分が2桁になったところで止める。
(4) 上記(3)で得られた数値の後ろに「%」を付ける

こうして得られたパーセンテージが、「二人がうまくいく確率」だそうな。

彼女と私の氏名を例に、実際に電卓を叩きながら、説明がなされた。
「ほら」と、画面に表示された「54.78某」との結果を指さした彼女は、
ちょっとばかり心細そうに言った。
「でもね、これ、当てになるか分からない。だって、50%より低くならないって、友達が言ってた」

確かに仰る通り。

上記(1)では、フリガナの文字数と等しい桁数を持つ自然数が得られる。
これは一般的に見て、まず3桁以上のものであろう。
従って、上記(2)で得られる自然数もまた、3桁以上のものである。
ここで、上記(3)の操作において、「整数部分が2桁になったところで止める」のが味噌だ。
整数部分が3桁の数の中で、最小のものは「100」である。
 100÷2=50
つまり、この50%こそが、この相性診断の結果として得られる、最小値なのだ。

逆に、50%より低い結果、例えば40%という結果を出そうと試みたとする。
そのためには、上記(3)において、次のような経過をたどる必要がある。
 ・・・
 160÷2=80
 80÷2=40
しかし実際には、80という数が表れた時点で整数部分は2桁になっている。
従って、この段階で「÷2」の操作を止めなければならない。
すると、得られる結果は、40%ではなく、80%となる。
やはり、どう頑張っても、50%より低くはならないのだ。


さて、「『二人がうまくいく確率』が絶対に50%より低くならない」ことを理由に、
「この相性診断は当てにならない」と言えるのだろうか?
俄かには判定しがたい疑問である。

ただ、敢えて論点を少しばかりずらして、私の心情的なところに目を向けるならば、
「『二人がうまくいく確率』が絶対に50%より低くならない」ことをこそ理由に、
むしろ、この相性診断を当てにしたい。

これに従うならば、
もしも、誰かとの間で意思疎通がうまくいかないように思えたとき、
それは、50%以下の「うまくいかない」道を無理矢理に押し進もうとしていることになる。
辺りを見渡せば、そこには残り50%以上の「うまくいく」道が開けているはずだ。
たとえ、後者の道がすぐには見つからなかったとしても、
兎にも角にも、選択肢となり得る全ての道のうち、50%以上は「うまくいく」方に向かっている。
しからば、折に触れて、ちょっと一息入れがてら、辺りの景色を見渡してみよう。

そう思うと、この相性診断は、私にとって救いと言える。


「・・・ごめん、ごめん。つい、自分のことばかり話してしまった。退屈だったかな?」
我に返った私をまっすぐに見つめながら、その女の子は穏やかに、かつ、はっきりと言った。
「ううん。この『電卓による相性診断』、私も当てにします」

2013年5月16日木曜日

イチゴ診断

一般的に通用するかどうかは兎も角として、
我らが実家においては、
「中年の進行度合いは、愚にもつかないダジャレに対する弱さで測れる」と信じられている。


ある朝、ベランダに出ると、今年最初の苺の花が咲いていた。
実家に帰り、それを家族に報告した。
「苺だけに、一語にして申しますと、一号開花のニュースです」。
すると兄弟たちは、それぞれにそれぞれの反応を示した。

こんなとき我が家では、
(1) 思わず顔をほころばせた場合、中年初期症状
(2) 「ぷっ」と吹き出した場合、中年の症状が進行中
(3) 反射的に涙を流して爆笑した場合、中年も末期症状
と、まことしやかに言われている。

実家メンバーの誰がどの程度の進行度合いと判定されたか、については、
プライバシー保護の観点から、ここでは触れないでおくことにしよう。

2013年5月6日月曜日

不眠症

どうにも眠れない夜が幾晩か続いた。
これは不眠症というものだろうか。
実家に帰った折、家族に相談すると、驚きと心配との混ざった様子で尋ねられた。

「目が冴える感じ?それとも、眠いのに眠れないの?」
「眠たいけど、布団に入って目を閉じても全然眠れない」
「布団の中で『眠れない』と思っているのは、どれくらい長い間?」
「ずーっと長い間」
「具体的には、何時間くらい?」
「……5分くらいかな。ご質問に合わせて単位を直すなら、1/12時間くらい」
「それは不眠症どころか、人も羨む寝つきの良さだ。贅沢を言うな」
兄弟たちは口々に私を責めた。

確かに、一般的には仰る通り、かもしれない。
しかし当の私にとっては、この5分間こそが如何とも耐え難く、長い長いものなのだ。
誰か、この辛さを分かってくれる人はいないだろうか。

すると、それまで黙って聞いていたが口を開いた。
「枕に頭がついた時点で、まだ眠っていないなんて、さぞ辛いでしょうね」

どうやら私は、間違いなく母の血を引いた子らしい。