2012年4月7日土曜日

出来心

その晩は早めに床に就く予定だった。
翌朝は少し早めに起きて、
それからしばらく続く、私にとっては目一杯のスケジュールに、
元気一杯稼動して取り組む決意をしていたためだ。

全ては順調だった。
午後10時前、あとは寝るばかりに仕度を整え、明かりを消そうとした。
その時だった。
まだ明かりの消えていない部屋の中を、ぐるっと見回してしまったのである。
それは、ほんの出来心で、何となくチョット見回してみただけのことだった。

改めて、ぐるっと見回してみると、
「この部屋には、もっと望ましい家具の配置があるはずだ」
と直感した。

あの棚をこっちに動かし、
この棚の中身は、分野別にあっちとこっちに振り分けて、
ここに空いたスペースには、あの辺りのものを入れてやって、
あれをああ動かして、これをこう動かして、
こうして、ああすれば・・・
この部屋は間違いなく、今よりもずっと素敵に快適に、暮らしやすくなる!


私の信条の一つに、『思い立ったが吉時』というのがある。
最後が「吉日」でなく、「吉時」なので、「その日」なんて悠長なことは言っていられない。
「その時、その瞬間」に実行すべし。

翌朝からのスケジュールも忘れ、我も忘れて、
寝巻姿のまま、あの棚をこっちに動かすべく、まずは中身を出し始めた。

強い空腹と喉の渇きを感じて、我に返った。
時計に目をやると、午前二時を回っている。
部屋の模様替えは、未だ五合目にも達していない。
しかし、翌日は早朝からの稼動が予定されている。
兎にも角にも時間切れとして、取るものも取り敢えず、散らかった部屋の中で床に就いた。


あれから一ヶ月、私にとっては目一杯のスケジュールの中で、
一つ一つの課題に、精一杯取り組み続けている。
そして今なお、我が城は、素敵で快適で暮らしやすい部屋への変革途上であり続けている。

変革途上であるとは、
それなりに構築され、既にそれなりに回っているシステムを一旦バラし、
一つ一つの構成要素を改めて確認しながら、
それまでとは異なる形に再構築する作業の真っ最中、と言い換えることができる。
このとき、すっかりバラバラにされた世界は、まさに混沌である。
たとえ、最終的に目指すべき再構築後の絵図が掲げられていても、なお、
混沌の中においては、右も左も分からずに、迷い、戸惑い、もがく。

そんな変革途上の部屋の中での生活を、
すなわち、混沌の中で迷い、戸惑い、もがく生活を、もう一ヶ月続けている。
そして今なお、出口は見えていない。

このバラバラが、
ほんの少し前までは、それなりのシステムとして回っていたことや
いずれまた、新しいシステムに生まれ変わって、素敵に回り始めるはず、ということが、
今や、信じ難くなっている。
そんな混沌とした生活に、チョッピリ疲れを感じると同時に、ふと疑問が湧いた。

そもそも、いつ、どんな訳で、私はこんな混沌の中に放り出されてしまったのだろう?
こんな一大事というのは、一体全体、どんなきっかけで始まるものなのだろう?

記憶の中で、時間を遡ってみると、ある瞬間に行き当たった。
そうだ。
予定通り、順調に、あとは寝るばかりに仕度を整え、部屋の明かりを消すはずだった、その時だ。
予定に反し、まだ明かりの消えていない部屋の中を、ぐるっと見回してしまった、あの時だ。

あの時は、まさか、こんな一大事に至るとは思いもしなかった。
きっかけは、ほんの出来心だったのだ。