その晩は早めに床に就く予定だった。
翌朝は少し早めに起きて、
それからしばらく続く、私にとっては目一杯のスケジュールに、
元気一杯稼動して取り組む決意をしていたためだ。
全ては順調だった。
午後10時前、あとは寝るばかりに仕度を整え、明かりを消そうとした。
その時だった。
まだ明かりの消えていない部屋の中を、ぐるっと見回してしまったのである。
それは、ほんの出来心で、何となくチョット見回してみただけのことだった。
改めて、ぐるっと見回してみると、
「この部屋には、もっと望ましい家具の配置があるはずだ」
と直感した。
あの棚をこっちに動かし、
この棚の中身は、分野別にあっちとこっちに振り分けて、
ここに空いたスペースには、あの辺りのものを入れてやって、
あれをああ動かして、これをこう動かして、
こうして、ああすれば・・・
この部屋は間違いなく、今よりもずっと素敵に快適に、暮らしやすくなる!
私の信条の一つに、『思い立ったが吉時』というのがある。
最後が「吉日」でなく、「吉時」なので、「その日」なんて悠長なことは言っていられない。
「その時、その瞬間」に実行すべし。
翌朝からのスケジュールも忘れ、我も忘れて、
寝巻姿のまま、あの棚をこっちに動かすべく、まずは中身を出し始めた。
強い空腹と喉の渇きを感じて、我に返った。
時計に目をやると、午前二時を回っている。
部屋の模様替えは、未だ五合目にも達していない。
しかし、翌日は早朝からの稼動が予定されている。
兎にも角にも時間切れとして、取るものも取り敢えず、散らかった部屋の中で床に就いた。
あれから一ヶ月、私にとっては目一杯のスケジュールの中で、
一つ一つの課題に、精一杯取り組み続けている。
そして今なお、我が城は、素敵で快適で暮らしやすい部屋への変革途上であり続けている。
変革途上であるとは、
それなりに構築され、既にそれなりに回っているシステムを一旦バラし、
一つ一つの構成要素を改めて確認しながら、
それまでとは異なる形に再構築する作業の真っ最中、と言い換えることができる。
このとき、すっかりバラバラにされた世界は、まさに混沌である。
たとえ、最終的に目指すべき再構築後の絵図が掲げられていても、なお、
混沌の中においては、右も左も分からずに、迷い、戸惑い、もがく。
そんな変革途上の部屋の中での生活を、
すなわち、混沌の中で迷い、戸惑い、もがく生活を、もう一ヶ月続けている。
そして今なお、出口は見えていない。
このバラバラが、
ほんの少し前までは、それなりのシステムとして回っていたことや
いずれまた、新しいシステムに生まれ変わって、素敵に回り始めるはず、ということが、
今や、信じ難くなっている。
そんな混沌とした生活に、チョッピリ疲れを感じると同時に、ふと疑問が湧いた。
そもそも、いつ、どんな訳で、私はこんな混沌の中に放り出されてしまったのだろう?
こんな一大事というのは、一体全体、どんなきっかけで始まるものなのだろう?
記憶の中で、時間を遡ってみると、ある瞬間に行き当たった。
そうだ。
予定通り、順調に、あとは寝るばかりに仕度を整え、部屋の明かりを消すはずだった、その時だ。
予定に反し、まだ明かりの消えていない部屋の中を、ぐるっと見回してしまった、あの時だ。
あの時は、まさか、こんな一大事に至るとは思いもしなかった。
きっかけは、ほんの出来心だったのだ。