2013年11月4日月曜日

ヘアスタイルのお手本

美容院に行った。
「今日は、どんな感じに?」との美容師さんの質問に応えるべく、
アン・ハザウェイの写真を見せた。
「お手本はこんな感じで、お願いします」

これまでにも何度となく、美容師さんにヘアスタイルのお手本の写真を見せてきた。
 イングリット・バーグマン
 オードリー・ヘップバーン
 樋口可南子
 宮沢りえ
 ・・・

美容師さんの人柄というのは驚くべきもので、
一度たりとも、「同じにできるのは髪型だけですよ」なんて言われたことがない。
「良いですね」とか、「髪質が異なるので、前髪だけ少し長めにすると、きっとお似合いですよ」とかいった言葉が返ってくる。

また、美容師さんの腕前というのも驚くべきもので、
少なくとも、美容院を出る、その時の私の髪型は、
雑誌の切り抜きの中で微笑む銀幕の美女と何ら変わるところがない。

それだけに、顔やプロポーションの格差に驚嘆する。

しかし、そんなことでヘコタレル私ではない。

私には、想像力という最強なる武器がある。
美容院で鏡を見つめている間はもちろんのこと、
街のショーウィンドウや地下鉄の窓ガラスに映る自分の姿に目をやるときも、
網膜へ届く映像に関しては髪型のみに注目し、
ほかは想像力をフル回転して、
顔とプロポーション、ついでにファッションも、銀幕の美女たちのそれと入れ替えるのである。

こうして私は、晴れて完全なるアン・ハザウェイに変身した。


実家に帰ると、もちょうど美容室から帰ったところだった。
「さっぱりしたわ」という母の頭を見ると、
驚くべきことに、私と同じ髪型をしているではないか。
この、割烹着を着て買い物用のコロコロを引っ張る、現代日本における典型的オバサンが、
同じくアン・ハザウェイの写真をヘアスタイルの手本としたのだろうか。

「美容師さんには、何て言って切ってもらったの?」私が尋ねると、
「『いつも通り』よ」母は答えた。

確かに母はいつでも、記憶を何年遡ってもなお、いつでもこの髪形である。
とはいえ、
わざわざ、遠く海を隔てた映画スターの写真をお手本にした私としては、
母と私のヘアスタイルの間に、何かしら差をつけたいところだ。

「私はね、アン・ハザウェイの写真を見せて、お手本にしてもらったの」
すると、母は言った。
「きっと、そのアンさんは、私の写真を美容院に持って行ったのね」