母は晴れ女である。
独身時代の母は、時折、職場の仲間と一緒に登山を楽しんだらしい。
彼女がいれば天気の心配は要らない、というのが、
登山仲間の間では、神話のように語り継がれていたそうだ。
若い頃から、母は晴れ女だったらしい。
結婚後の母は登山をしないので、山での晴れ女ぶりを確認することが難しい。
とはいえ、母と二人で旅行やらピクニックやらに行って、降られたことは一度もない。
しかも、私が親孝行休暇を取るのは、梅雨時と決まっている。
更に、私は母を誘う場所として、雨降りの多い地域を、つい選んでしまう。
それでも、東京に帰って親子で口を揃えて発する言葉は、
「我々に必要なものは、傘でなく日焼け止めクリームだ」である。
やはり今でも、母はかなりの晴れ女らしい。
ところで、真面目一筋の彼女は、
たとえ台風接近により暴風雨に対する注意報が出ていても、ミゾレや雪が降っていても、
行き着けのスーパーマーケットの『全品○割引!』への参戦だけは欠かさない。
家族の反対を押し切って、彼女が玄関を出ると、不思議と雨風は弱まる。
そして気を揉んで過ごした何十分かの後、帰宅した彼女を玄関で出迎えると、
不思議なことに、彼女の傘も、合羽も、長靴も、買い物袋も、特に濡れた様子はない。
せいぜい、ちょっとした小雨の中を歩いて来た、という程度なのである。
「思いのほか、小降りだったわ」という彼女の言葉は、まんざら嘘でも強がりでもないようだ。
すると彼女の帰宅を待ってましたとばかりに、再び雨風が強まる、というのが、
不思議ながら通例である。
どういうわけか、彼女の真上だけは、雨雲が避けて通るらしい。
そんな時、つくづく思う。
今や母は、最強の晴れ女である。