「奥秩父地質ツアー」という、早口言葉のような集いに参加した。
地球科学を専門とするビッグな大学教授をはじめ研究者が3名、素人が数名、
『地質学』という切り口で、地球や自然に関するプチ講義を受けながら、
奥秩父の自然を観察し、散歩する、という、何とも贅沢な企画だった。
好奇心旺盛な紳士淑女に混じって、ハイキング目当てで参加した私も、
プチ講義の虜となるのに時間は掛からなかった。
「にわか地質学博士」気分で、目の前の地層や地形や岩の様子に目を凝らしては、
参加者同士で岩の種類や年代を言い当ててみたり、ハズレてみたりしては、
そのたびに、はしゃいだり悔しがったり、まるで子どもの一団ように無邪気に散歩を楽しんだ。
何度目かのプチ講義を終えた時だった。
「何か質問はありますか?」との先生の促しに、一人の女史がすかさず手をあげた。
「例えば、小中学生をここに連れてきた時、
地質学を楽しむことを教えるためには、何をポイントとして見せるべきでしょうか?」
文科系の高い教養を持ち、現在は「科学の楽しさを伝える」活動を続ける彼女の、
一途なまでの真面目さを、そのままに表したような質問だった。
先生は少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。
「僕達人間は皆、生まれながらにして自然科学への興味を持っていると思います。
ところが、残念なことに、
周りの大人から、見る対象や見方を規制されることにより、生まれ持った興味が潰されてしまう。
すると、面白いものだらけだったはずの自然や学問の世界に対して、心を閉ざしてしまう。
そこに残るのは、ただ指定されたHow Toに追従するだけの覚えこみの『お勉強』だけで、
自然も科学も学問も、発展も何もなくなってしまう。
だから、自然発生的な興味を大切にすること、せめて潰さないことがポイントでしょう。
もし、ある子が、石の形に興味を示したなら、形の似ているものや異なるものを探すのも良い。
石の色や模様に興味を示したなら、それを基準に石を分類してみれば良い。
そんな時、無理に岩石としての種類や組成や年代を教えなくても良いんです。
そのときの、その子の興味と、一緒にいる自分の興味と、両方を尊重してはどうでしょう。
私自身、自分の興味に基づいて今回のコース選定をし、資料を準備し、話をしている。
これがもし、皆さんの興味と響き合うことができたらとても嬉しい。
ご質問に対して、直接の答えにはならないかもしれませんが、
自然や学問、周囲の全てに触れるときに大切なのは、生まれたての子どものような目線です」
参加者の殆どがミドル・エイジ(またはそれ以上)のこのツアーにおいて、
知らぬ間に、子どもの一団のようにはしゃぎながら散歩を楽しんでいたのは、
奥秩父の自然のなせる業とばかり思い込んでいた。
しかし、「あなたの興味と私の興味を互いに尊重し、響き合わせましょう」という、
この先生の、「楽しむことを教えるポイント」によるところも大きいのだろう。
どっしりとした体つきの先生が、なお一層どっしりと、頼もしく見えた。