2013年1月17日木曜日

ある1時間

私の名が書かれた、古い古い段ボール箱を、実家から我が城に運び込んだ。
目的は、中身を確認して整理すること、早い話が、捨てることだ。

箱を開けると、まず古い古い茶封筒が出てきた。
その中には、古い古い手紙が入っていた。

小学校入学からの2年間、担任としてお世話になった先生からの手紙だった。
小学2年生最後の日に、恐らく、先生はクラス全員に手紙をくださったのだろう。

その先生は、詩作とハモニカ演奏に、特に力を注がれていた。
国語の授業では、頻繁に詩を読まされ、書かされた。
「朝の会」と「帰りの会」では、毎日必ずクラス全員でハモニカ演奏を数曲ずつした。

そのクラスでの二年間、私は「ハモニカ係」なる役割を担っていた。
「朝の会」と「帰りの会」のハモニカ演奏時になると、教壇に立ち、
「こんどは『××の歌』を吹きましょう!いち・にの・さ~ん!」と掛け声を掛ける、という係である。
今思い返してみると、果たして、役に立つのか立たないのか、悩ましい役割である。
しかし、幼い頃からお調子者だった私には、ちょうど良い役割だったのだろう。
それが楽しくて仕方がなかった、という記憶だけは、うっすらと甦ってくる。

こんな不思議な「ハモニカ係」、
先生はよくぞ発案し、また、私に就任させてくれたものだ、と今更ながら感心した。
先生はいつも、私のファーストネームを少しだけ変形させて「○○」と呼んでくれたっけ。
そんなことを思い出しながら、手紙を開いた。

「ハモニカ係さん、おつかれさん。
大きな口で、大きな声で、『いち・にの・さ~ん!』
先生、いつまでもわすれません。
ああいう宝物を、どうして録音しておかなかったのかと、こうかいしています。
かわいい かわいい おマセな○○、
サヨナラ、○○」


読んだ手紙をきれいに畳んで封筒に入れ直し、段ボール箱に戻した。

そもそもは、古い古い段ボール箱を、捨てるつもりで開けたはずだったけれど、
私のしたことと言えば、手紙を一通読んだだけだった。
古い古い段ボール箱の中身は、何一つ捨てられることなく、運び込んだままの状態に戻った。


気付いたら、ちょうど1時間が経っていた。