むかーし、むかし、まだ私が小学生だった頃のこと。
「1999年7月、世界の終わりが来る」と、まことしやかに噂されていた。
少なくとも当時の私の世界、つまり、通っていた小学校や、近所の友達の多くが、
ことあるごとに、そんな噂を囁いた。
こんな噂に対し、文字通り『半信半疑』だった私は、
『信』の方の半分のお蔭で、世界の終わりを想像し始めた。
1999年に世界の終わりが来るならば、その時には、地球が粉々になってしまうのかな。
粉々の地球から、人々は、みんなテンデンバラバラに放り出されてしまうのかな。
家族も、友達も、喧嘩した相手も、知らない人も、みんなみんな、バラバラになるのかな。
一人ぼっちで宇宙に放り出されたら、どうなるだろう。
私は宇宙服も着ていないし、酸素ボンベも持っていない。
きっとその時、私の人生も終わるんだ。
そうすると、私は何歳で人生の幕を閉じるのだろう?
計算用紙に、1999から自分の生まれ年を引き算してみた。
1999年に世界が終ると仮定した場合における、私の人生の年数が算出された。
42歳か・・・。
本当に私、いつか、42歳のオバサンになるのだろうか。
まるっきり想像つかないや。
もしかすると、そのころには案外、オジサンになってるかもしれない。
42歳のオバサンまたはオジサンになった私は、一人ぼっちで宇宙に放り出されても怖くないのかな。
しばらくの間は、そんな不安に苛まれていたものの、
『疑』の方の半分のお蔭だろうか、いつの間にか、忘れていた。
さて、気づいたら、1999年が来ていた。
えーっと、世界の終わりは今年の何月に来るんだっけ?
そういえば、世界が終るとき、たしか、私は42歳になっているはず・・・
あれ?
まだ私、42歳になってない。
改めて計算用紙に、1999から自分の生まれ年を引き算してみた。
2、3度検算した結果は全て等しく、それは、42とは異なる値だった。
小学生時代の私の計算は、一の位も、十の位も、どちらも誤っていたことが判明した。
しかも、この計算、1999から19XXの引き算なので、繰り下がりは一切ない。
にも拘らず、全くのお門違いな計算結果を出していたのだ。
もし、こんなに酷い計算間違いをした私が数学を専攻したという不条理が原因で、
世界がご機嫌を損ね、それで世界の終わりが来てしまったら、どうしよう。
世界中の皆さんに申し訳ない気がした。
けれど、1999年が終っても、世界は終わらなかった。
酷い計算間違いをしても、そんな計算間違いをする私が数学を専攻しても、
世界はご機嫌を損ねなかった。
世界は、こんな私も許してくれた。
世界って、寛容なところあるんだな。