懐かしのメロディーを口ずさむ紳士淑女たちの中に、父の姿は見られなかった。
部屋を覗くと、父はベッドで横になっていた。
体調が悪いわけでも何でもない。
気難しい父にとって、「皆さんと一緒にその場を楽しむ」のは、何よりも苦手なことなのだ。
私は懇願に懇願を重ね、やっとのことで、父は自分の体を車いすに移動することを許可した。
もちろん、お楽しみ会には出席しない、との条件付きだ。
車いすに腰掛けた父は、窓外の景色を眺めた。
数日前には雪が降ったことを話すと、
父は目を凝らして、景色の中に雪の名残を探しながら言った。
「雪は、降ったばかりの時は良い。柔らかくて、白くて、きれいだ。
でも、しばらくすると、凍って固くなる。
光の具合で見えなくもなるし、汚れた色にもなる。
光の具合で見えなくもなるし、汚れた色にもなる。
日の当たるところは良いんだ。いずれ融けてしまうから。
日陰の雪は、すっかり固くなってしまって、融かすことも、どかすことも、どうにもできなくなる。
だから、日陰の雪には気を付けないといけない」
「そうだね。まだまだ凍っているところがあるし、氷は見えにくいから、歩くときは気を付けるよ」
「転ばないようにな」
そんな受け答えをした。
そして私は、最近の出来事を、あれこれと報告した。
金曜の晩には、ごちそうを作って、友人たちを招き、賑やかに過ごしたこと。
歓迎の準備が間に合わず、お客さんに料理を手伝ってもらったこと。
翌日は、残ったごちそうを実家に運んで、今度は家族で宴会をしたこと。
どれもこれも父の苦手な話題だった。
私の話を一通り聞き終えると、父は言った。
「それは良いことをしたな。楽しかったろう」
さっきまで、お楽しみ会を頑なに拒んでいた父は、穏やかに微笑みながら、言葉を続けた。
「雪は、降ったばかりの時は良い。柔らかくて、白くて、きれいだ。
でも、しばらくすると、凍って固くなる。
光の具合で見えなくもなるし、汚れた色にもなる。
光の具合で見えなくもなるし、汚れた色にもなる。
日の当たるところは良いんだ。いずれ融けてしまうから。
日陰の雪は、すっかり固くなってしまって、融かすことも、どかすことも、どうにもできなくなる。
だから、日陰の雪には気を付けないといけない」
父は、窓の外を指さした。
その先には、ブロック塀の陰に、黒っぽく固まった雪があった。
きっと、あの日陰の雪は、いつまでも融けることなく、徐々に固さを増していくのだろう。
しばらく黙ったまま、二人で日陰の雪を眺めた。
父は、窓の外を指さした。
その先には、ブロック塀の陰に、黒っぽく固まった雪があった。
きっと、あの日陰の雪は、いつまでも融けることなく、徐々に固さを増していくのだろう。
しばらく黙ったまま、二人で日陰の雪を眺めた。
「じゃ、暗くならないうちに帰る。また来るわ」
「日陰の雪には気を付けてな」
一人になって歩きながら、父の言葉を思い返した。
二度目に「日陰の雪」の話が出たとき、
話題が窓外の景色に移った、とは、私には思えなかった。
いったい、父は何を「日陰の雪」に喩えていたのだろう。
話題が窓外の景色に移った、とは、私には思えなかった。
いったい、父は何を「日陰の雪」に喩えていたのだろう。
気難しく、人と一緒にその場を楽しむことを大の苦手とする父は、そんな自分の頑固さを、
「すっかり固くなってしまって、融かすことも、どかすことも、どうにもできなくなった日陰の雪」
に喩えたのだろうか。
「まだ柔らかくて、白くて、きれいなうちに、
お前は、日の当たるところに出て、融かしてしまいなさい。
決して、固くなってはいけない」
決して、固くなってはいけない」
そんなメッセージが聞こえた気がした。
私の人生において、「日陰の雪」になり得るものは、何だろう。
今のうちに、日の当たるところに出して、融かしてしまうべきものは、何だろう。
そもそも実のところ、父が「日陰の雪」に喩えたかったのは、何だろう。