どう言う訳だか、事務所でお昼をご馳走していただくことになった。
メニューは、
・ 五目飯のおいなりさん
・ 芋がらの味噌汁
・ 野菜と厚揚げの煮もの
である。
いずれも、私の好物中の好物である。
しかも、働き者の主婦の手作りである。
美味しいのなんのって、それはそれは涙が溢れんばかりである。
ひとしきり夢中で食らいついた後、気付くと、目の前にはおいなりさんが一つだけ残っていた。
いわゆる、「遠慮の塊」である。
社長も私も、この時点で3個ずつ平らげている。つまり、おあいこである。
二人の間に置かれたこの遠慮の塊は誰の胃袋に入るべきか、容易には測り兼ねた。
ためらいがちな乙女心を抱きつつも、私は思い切って尋ねた。
「おいなりさん、召し上がりますか?」
すると社長は、いつもの紳士的な態度を崩すことなく言った。
「その『召し上がりますか?』は、『召し上がらないでください』という意味ですね?」
「女の言葉は本音と裏腹」なんて言われるように、
男性にとって、女心を読み取ることは大分難しいことらしい。
しかしこの日、男性である社長はいとも簡単に、しかも瞬間的に、女心を読み解いて見せた。
結局、遠慮の塊は私のもとにやってきた。
メルシー、社長。
メルシー、女心を読む男。