2011年11月14日月曜日

ドライブ・デート

以前、仕事でお世話になったオジサマ方と一緒に、小ぢんまりと昼食会をした。

「北海道で、ドライブ・デートしたよね。覚えてる?」一人のオジサマが私に言った。
「もちろん!」

数年前、東京では残暑の厳しい頃、肌寒い初秋の北海道に出張した。
とある催しの事前現場確認のために、
あっちからこっちへ、宿泊場所も転々としながら、
プロジェクト関係者たち、かなりの大所帯で、数日間を過ごした。

3日目辺りだったろうか、もともと乗り物に弱い私は、移動に次ぐ移動が応えてきた。
車酔いせずに一日過ごせることだけを祈りながら、朝の集合時刻に集合場所に参上し、
とある企業チームの移動車両に、間借りで乗せていただいた。
車で40~50分ほど走ったら、本日最初の確認地点に着く予定だった。

30分ほどを車中で過ごしたとき、自分の手元が、何か物足りなく感じた。
時計がない。
カバンの中もポケットの中も、探してみたが、見つからなかった。
ホテルのベッドサイドに置きっぱなしにしたことが、記憶としてよみがえって来た。
「あ~ぁ、親友とお揃いで買った、思い出の時計なのに・・・」思わず口から出た。
「じゃあ、戻ろうか?」運転中のオジサマは軽く言った。
「そんなこと、ダメです!どうせ安物だし・・・業務中なのに、皆さんに迷惑掛けられません」

その日のスケジュールも、かなりタイトなものであった。
屋外での確認作業は、日が落ちたらおしまいだ。
今からホテルに戻ったら、最低でも1時間のロスタイムが生じる。
下手に戻ったら、確認する場所を1箇所、割愛することになるかもしれない。
大所帯だったこともあり、皆を待たせることもできないし、
この車両のみ別行動を取って、同乗の企業チームだけに割を食わせることもできない。

「じゃあ、とりあえず行くとこまで行ってから考え直そう」オジサマは進み続けた。
最初の確認場所に到着すると、同乗していたもう一人のオジサマが降り際に言った。
「皆には適当に言い訳しておくよ」
運転席のオジサマの言葉がすぐに続いた。
「戻ろう」
優柔不断な私にさえ、決めかねてモジモジすることを許さないような、絶対的な迫力だった。
二人で宿に戻る途中、オジサマは言った。
「ものの価値は値段ではない。
思い出の品というのは、そんなに簡単に諦めてはいけない。
ましてや、仕事中だからとか、他の人に迷惑が掛かるとか、そんな心配してはダメだ。
私はこれを迷惑だなんて思っていないし、
あなたと親友との思い出のために一役買えるなら、むしろ光栄なくらいだ」

かくして、思い出の時計を取り戻した。

急いで現場に行くと、必要な確認を済ませた大所帯全員が、ノンビリと休憩していた。
広い牧草地で思い思いに過ごす関係者達は、まるで放牧された羊のように見えた。
「どう、あった?」アイスクリームをペロペロしながら、こわもての羊さんが私に尋ねた。
「ありがとうございます。お蔭様で見つかりました。お待たせしてしまい、申し訳ありません」
スケジュールが気に掛かる私は、平謝りに謝った。
「これ美味しいよ。あっちで売ってるの。皆もまだ食べてるし、一息いれたら?」

なんだか、気が抜けてしまった。
確かにタフなスケジュールはまだ続くけれど、それだけに皆もチョット休憩したかったのかな。
その場の全員が、私の思い出のために、喜んで一役買ってくれたようでもあった。

親友との思い出に加え、
関係者が揃って羊さんになり、暖かく見守ってくれたドライブ・デートの思い出の詰まった
その安物の時計は、
その後一年足らずで、壊れて止まってしまった。
それでも今なお、私の大切な宝物だ。