ほんの少し前には、公園の池に蓮の花(*)がいっぱい咲いていた。
それが今は、みんな実をつけている。
この光景を見ていたら、子どもの頃に聞かされた話を思い出した。
昔々、あるところに、可愛い女の子がいた。
ある日、おやつにピーナツが出された。
女の子は一粒口に入れ、ポリポリ、もぐもぐ、味わっていた。
もう一粒を手に取った。
色んな角度から、ようく見た。
「おや、この向きから見ると、ちょうど私の鼻の穴と、形も大きさも似ているぞ」
大発見をした。
科学の世界では、仮説を実験で確かめる必要がある。
片方の鼻の穴に、手に持っていたピーナツを、最も適切と思われる角度で当てた。
思いのほか、ピーナツの方が大きめに思われた。
でも、やってできない大きさではない。
思い切って、少し押してみた。
これまた思いのほか、押せば入るものだった。
鼻の穴の出入り口と、ピーナツの最後尾が揃うようにして、鏡を見た。
こうすると、正面から見たらピーナツの姿は見えない。
上を向いて、鼻の穴を鏡に向けると、ピーナツのお尻が覗いている。
実験は終了した。
結論として、鼻の穴とピーナツの相性はバッチリだった。
さて今度は、実験の片づけをする段階だ。
鼻の穴に入れたピーナツを、どうやって取り出そうか。
当然のことながら、取りたいものは手で掴むべし。
ピーナツを掴み取るべく、鼻の穴に指を入れた。
指を入れると、ピーナツはもっと奥へ逃げていった。
掴もうと指を入れれば入れるほど、ピーナツは奥に入っていく。
思いのほか、鼻の穴には奥行きがあることを知った。
どうしようもなくなり、母親を呼んだ。
母親は、ピンセットで取ろうとした。
しかし、既に鼻の中の湿気を吸ったピーナツは、ふやけていた。
鼻の穴よりも断然大きく膨らんだピーナツは、始末に負えなかった。
どうにもこうにも、ピンセットを入れることさえできなかった。
ピンセット作戦は失敗に終わった。
母親が慌てふためいているのを見ているうちに、
女の子は、胸の内でこみ上げてくるものを感じた。
思わず、もう一方の鼻の穴にもピーナツを入れた。
鼻呼吸が出来なくなった。
金魚のように口をパクパクさせて、いよいよ本人にもこれが一大事であることが分かった。
結局は、近所の耳鼻科へ駆け込み、事なきを得た。
・・・という、それはそれは恐ろしい話だった。
実話なのか、フィクションなのか、今となっては定かでないし、
細部については、きっと長い年月の間に、記憶の内容に変更が生じていることだろう。
何しろ、臨場感たっぷり過ぎた。
まるで自分の鼻の穴にも何か詰まっているようで、ひどく息苦しく感じられた。
話を聞き終えて、心に固く誓った。
これから、一生涯、どんな誘惑があろうとも、鼻の穴にはピーナツを入れるまい!
蓮が実をつけているところは、
まず穴のあるところに、実を押し込んだように見えてしまう。
そして、あの話を聞いたときの恐怖と、その直後の固い誓いが蘇ってくる。
池いっぱいに蓮が実をつけたさまを見て、改めて決意した。
これからの人生、どんな誘惑があろうとも、
鼻の穴には、
ピーナツも、節分のお豆も、ビー玉も、電気のコンセントも、何も入れるまい!